top of page

恩返しという想いを胸に

 『ただいま!』が飛び交う憩いの場所へ

ー京都市北区雲ヶ畑「ぜーもんカフェ」久保清美さんー

 京都府立大学から鴨川の源流に向かって車を走らせること約30分。京都市北区の山あいにある雲ケ畑地区に、土日祝限定でオープンする一軒のカフェがある。その名は『ぜーもんカフェ』。今年でオープン5周年を迎えられた。
��キャプチャ.PNG
ぜーもんカフェの外観。昔ながらの瓦屋根の古民家が特徴的。

 こちらのカフェを一人で営むのが久保清美さん(78)だ。『ぜーもんカフェ』の“ぜーもん”は、久保家の屋号「善右衛門」からとった。久保さんは名古屋のご出身。昭和41年に雲ケ畑のご主人のもとへ嫁いでこられた。

キャプチャ.PNG
久保 清美さん。家の入口には、カフェの名前の元となった屋号の看板がかかっている。

「嫁いできた当初は文化や慣習の違いに驚きました。毎朝4時半に起きて、1升5合の米を炊いたり、大根2本と麩1袋を使って炊きものをしたり…。家族が多かったので大変でしたね。主人は5代目の当主だったので、お盆やお正月には主人の兄弟の7家族が一堂に帰ってきました。今でもその対応が大変です(笑)」。

 ご主人のお父様は”枝打ちの名人”として雲ケ畑で林業に携わり、お父様の代までは山仕事で生計を立ててこられた。またご主人は農業協同組合に、久保さんも49歳から森林組合に勤務され、土日にはご夫婦で山仕事をされていた。そのため、現在でも家には山道具が大切に保管されているほか、薪割りは娘の旦那さんや山仕事サークルの学生たちに助けてもらいながら、“薪を使った生活”をされている。

 

キャプチャ.PNG
キャプチャ.PNG
枝打ちなどに使用していた山仕事の道具
薪割り機
キャプチャ.PNG
ぎっしり積み上げられた薪
キャプチャ.PNG

久保さんの家にある薪ストーブ

(※注意:カフェで入ることのできる場所ではありません)

 しかし、時代の流れとともに都市化が進み、林業も衰退。雲ケ畑はかつての活気を失いつつある。 

 

「私の知る限りでは、最も多かったときの人口が約500人でした。今は約140人にまで減少してしまいました。集落に子どもはいなくなり、この地域唯一の小学校である雲ケ畑小学校は10年ほど前に休校になってしまいました。実はその後、2組のご夫婦が移住されて子どもが4人になったんですけど、この子たちが小学生になるときどうなるのかは分かりませんね…」。 

  

 近年よく耳にする“買い物難民”問題についても、雲ケ畑は例外ではない。 

 

「雲ケ畑を通る京都バスの路線は10年ほど前に廃止されました。現在は、自治会、タクシー会社、京都市の補助によって“雲ケ畑バス~もくもく号~”が運行されています。公共交通機関はこのバスしかないですね」。 

 

 ”もくもく号”は、1日2往復運行されており、大人700円、小人350円で利用することができる。雲ケ畑で暮らす方にとってはなくてはならない交通手段だ。 

 

「私はこの春に運転免許を返納してしまったので、この”もくもく号”に乗って買い物に行くことや生協の移動販売車を利用して買い物をすることもあります。でも、京都に娘が2人いるので、娘たちに車で迎えに来てもらって市街へ買い物に行くことも多いです」。 

  

 このように、雲ケ畑は車を運転できない高齢者の方にとっては生活必需品を買うのにさえ苦労する地域であることがわかる。しかし、久保さんはその雲ケ畑に今もなお住み続けていらっしゃる。 

  

「雲ケ畑は山紫水明が本当に綺麗なんですよ。特に雨上がりの景色は最高ですね」。 

  

 たしかに取材に訪れた際も、見渡す限り広がる山林、川のせせらぎ、昔ながらの古民家が集まる集落の風景など、日本の“原風景”を感じられる所が随所にみられた。

キャプチャ.PNG
キャプチャ.PNG

ぜーもんカフェの裏を流れる鴨川の源流

裏庭に栗が落ちていた

キャプチャ.PNG

多くの自然に囲まれた場所にあるぜーもんカフェ

 では、久保さんはなぜこの地でカフェを始められたのだろうか? 実はカフェの開業に先立ち、農家民宿を営まれていたそうだ。

 

「2000年頃から京都大学の山仕事サークル『杉良太郎(すぎよしたろう)』との交流が始まりました。泊まりがけで山仕事のお手伝いをしてくれる彼らに、家の2階を夏合宿の宿泊場所として提供していたんですけど、そのうち、彼らをはじめ誰もが『ただいま!』と帰ってくることができる場所を作りたいと思うようになりました。そして、私も主人も70歳を過ぎていましたが、農家民宿を立ち上げることになったんです」。

 ここ数年は新型コロナウイルスの影響もあり民宿の営業はされていないが、当初は月1組のペースで来客を受け入れておられた。それでは、なぜその後『ぜーもんカフェ』を始めることになったのだろうか?

——カフェを始めたきっかけは何ですか? 

 

「ふと、家の前を自転車で通る方が多いことに気付いて。実は、雲ケ畑はサイクリストに人気の場所だったんです。『家の前を通った方がふらっと立ち寄れる場所を作りたい』という主人の思いから、2017年8月11日にカフェをオープンしました。私も主人も高齢だったので、土日祝限定で営業することにしました」。

​ しかし、カフェがオープンしてわずか数か月後、ご主人が病気で急死。それ以来、久保さんは一人でお店を切り盛りされている。そんな苦境を乗り越えた久保さんの『ぜーもんカフェ』に対する思いを深掘りしていく。

キャプチャ.PNG

久保清美さん(右)に取材中の久保(中央)と中島(左)

——どのような思いでカフェを営まれていますか?

 

「お客さんとの一期一会を大切にしたい、という思いでカフェを開いています。また、何よりもお客さんとのご縁や交流を大事にしていて、お客さんからの『また、来ます!』という言葉が1番の楽しみです。一人で暮らしていると誰かと会話することも減るので、いろんな方とお話しできるのはやっぱり嬉しいですね」。

 たしかに、我々が取材を終えた後も、久保さんは「何かのご縁でこうやってつながることができて嬉しいです」という言葉をかけてくださった。人との交流が好きな久保さんが営むからこそ、「ぜーもんカフェ」は訪れた人誰もがまた戻ってきたくなる空間なのかもしれない。 

——カフェを続けていく上でのこだわりは何ですか? 

 

「手間暇を惜しまないことです。食材などは自給自足によって費用を抑えています。その分例えば、土曜日に提供するおはぎは木曜日に小豆を七輪で時間をかけて炊くことなど、料理の完成には時間をかけて提供します」。 

 

 「ぜーもんカフェ」では、久保さんのこだわりが詰まったお料理や飲み物が提供されている。軽食としておにぎりセット(650円 ※2023年3月より700円)やおはぎセット(550円 ※2023年3月より600円)、冬限定のおぜんざい(450円)、また飲み物として自家製ほうじ茶、コーヒー(hot/ice)、 紅茶(hot/ice)、オレンジジュースがある。

 

 今回は営業日外での取材だったが、特別におにぎりセットをいただいた。またご厚意でおはぎと自家製ほうじ茶(善右衛門で栽培されたお茶の葉を使用)をいただいた。おはぎは、手作りおはぎとお好きな飲み物のおはぎセット(550円 ※2023年3月より600円)でいただくことができる。 

 

【軽食】おにぎりセット 650円(※2023年3月より700円) 

   <取材日のメニュー>

   季節のかやくご飯おにぎり <しめじご飯> 2個 

   おかず <万願寺とうがらし(炭火焼き)・なすの煮びたし・トマト>

   佃煮 <花山椒> 味噌汁 <とうふ> 

おにぎりセット:650円(※2023年3月より700円)

キャプチャ.PNG
キャプチャ.JPG
キャプチャ.JPG

おはぎと自家製ほうじ茶。

また、ぜーもんカフェの手書きメニュー

庭で栽培されているチャノキ。

葉の光沢と白い花が特徴。

 最後に、久保さんのこれからの目標を尋ねてみた。 

——これからの目標は何ですか? 

「主人が残してくれたこのお店をできる限り長く続けていきたいですね。一日でも長くお客さんと交流できるように、健康でありたいです。体はもちろん、心の健康も大切に。そして、来てくれた皆さんに少しでも恩返しをしていきたいです」。  

 

 これからも久保さんは、ご主人が残した「ぜーもんカフェ」とともに人との出会い・会話を大切にして過ごされることだろう。 

(取材日:2022年10月3日)

キャプチャ.JPG

【取材を終えて】

久保:素敵な「ぜーもんカフェ」という場所で、貴重なお話をたくさん聞かせて頂き、とても勉強になりました。人との出会いや会話を大切にされながら、昔ながらの薪を使い、野菜などを自給自足される暮らしが日本に失われてはいけないと改めて感 じました。また今度は営業日に行かせていただき、地域の方などと交流したいと思いま した。 

中島:人との交流を大切にされている久保さんのような存在が地域にいらっしゃることで、その地域の活力が高まることを実感しました。久保さんのあたたかいお人柄、どこか懐かしさを感じるお料理、居心地のよい空間に触れて、久保さんのファン、「ぜーもんカフェ」のファンになりました!また必ず伺いたいと思います。

【お店の情報】

名前:ぜーもんカフェ 

業態:カフェ、農家民宿(休業中) 

住所:〒603-8861 京都府京都市北区雲ケ畑出谷町1 

      https://goo.gl/maps/YszfsmTELzJNYGPf8

電話番号:075-406-2805 

Facebook https://www.facebook.com/profile.php?id=100054461589814

営業時間:土・日・祝 10:00-16:00 

     定休日 月曜日から金曜日 

     ※冬季は休業、営業再開予定:2023年3月

(土日祝でも天候などの関係で閉店されることがあります。開店情報はFacebookで告知されています)

bottom of page