生まれ故郷の活性化へ
―与謝野町「ローカルフラッグ」濱田祐太さん―
皆さんは京都北部にある与謝野町をご存知だろうか。丹後半島の付け根に位置し、総面積108㎢の範囲に約2万1千人(令和3年3月末時点)の人々が暮らす小さなまちである。山・川・海の景観が美しい自然豊かな地域で、古くから丹後ちりめんの産地としても知られている。
今回は、そんな与謝野町にある民間まちづくり会社、「ローカルフラッグ」についてご紹介する。ローカルフラッグは「地域の旗振り役」として、経済・雇用・人材育成などの好循環を生みだす「持続可能な地域づくり」を目指し活動している会社である。お話を伺った社長の濱田祐太(27)さんは、与謝野町出身で、若者による地元の活性化を目指し、大学在学中にローカルフラッグを立ち上げた。

ローカルフラッグ本社

濱田祐太さん(写真は濱田さん提供)
〇与謝野ホップから生まれたクラフトビール
株式会社ローカルフラッグが行う事業の1つとしてビール事業がある。
地域活性化への思いと環境保護を目的として造られたビールが「ASOBI」である。

横しまのデザインは、上から天橋立・棚田・野田川・丹後ちりめん・ホップ・阿蘇海を意味する
(写真は濱田さん提供)
「ASOBI」の意味とは?
①ビールを飲んだ人が遊んでいるように楽しく、前向きな気持ちになってほしいという思い。
②ビール事業を通してきれいにすることを目指す阿蘇海の語源である「あそびの海」。
他社との差別化
他社の作るビールと「ASOBI」の違いはホップにある。
ホップは常温のまま乾燥させる場合が多いが、乾燥させずにフレッシュな状態で使用することで味の新鮮さやみずみずしさにつながる。新鮮な状態のまま使用できるのは、与謝野町内でホップを生産しているからである。
自然環境への思い
事業をするのであれば他の課題も解決したいという思いから、与謝野町の自然環境に着目した。
与謝野町の東側に位置する阿蘇海では、牡蠣の大量繁殖により、自然環境や景観が損なわれている。牡蠣の殻をビール事業で必要な硬度調整剤の一部として使用することで海の環境保護と景観保全に繋げている。
自社醸造へのこだわり!
2015年から栽培され、2020年現在で2トンもの収穫量を誇る与謝野町産のホップを専用機械に入れて、苦みやアルコール量を調節する。
1本のタンクでビール1500缶を製造することができ、月に最大2万缶製造することができる。タンクが6本あるため、それぞれのタンクで異なる味、アルコール量のビールを造ることが可能になっている。
事業を始めた当初は、他の工場に醸造を委託していた。委託醸造を続けながらも、自社醸造を始めた理由は新鮮さにある。委託にするとホップを収穫してからビールになって届くまでに時間を要するため、新鮮さが失われてしまう。ホップの産地に近い場所で醸造することで「ASOBI」特有のみずみずしさが保たれるわけだ。


左:ビールの醸造機械 右:タンク
〇与謝野町の未来に向かって
―なぜ会社を創設しようと思ったのですか?
「生まれ育った町である与謝野町が人口減少によってなくなってほしくないからです。
与謝野町を活性化して持続可能な地域にするために自分が率先して動く必要があると感じていました」。
―会社創設時のご苦労はありましたか?
「まず、会社を創設するには仲間とお金を集めることが必須です。そのために各方面でプレゼンをすることや、目標を各地で言い続けることで、より多くの人に自分の思いが伝わるように尽力し続けました。時には産業交流センターのコワーキングスペースを使用するための申請を出したところ、「大学生は勉強していればいい」と言われ、使用を却下されたこともありました。悔しかったですし、多くの壁があることを実感しました」。
―想像もできないような苦労をされていたのですね。壁を越えて事業を行う中でのやりがいはありますか?
「与謝野町で作られたビールが全国に流通することで与謝野の名前も全国に広がっていることです。そして、京都府の『地域交響プロジェクト』※の1つとして認定された「与謝野駅100周年事業」(与謝野駅を目的地化するためのワークショップやイベントの実施)にも関わることができることですね。与謝野町のために始めた活動が成果として現われていることがやりがいです。また、ブルワリーの創設により与謝野町を訪れる人が増え、2016年より閉業していた与謝野駅前の宿「大正亭」が7年ぶりに復活したことも嬉しいことでした。地元の人々から様々な事業に対して、おもしろい・頑張ってほしいなどのプラスの評価をしてもらっています」。
※地域交響プロジェクトとは、京都府内の様々な分野の地域活動を支援し、市町村・京都府等の連携や協働を目指す取り組み。
京都府「地域交響プロジェクト交付金」https://www.pref.kyoto.jp/chiikikokyo/koufukin.html、2024年2月15日閲覧。


与謝野駅
与謝野駅前の宿「大正亭」
―地元の人からの温かい声があることは嬉しいですよね。ビール事業をさらに進めるために行っていることはありますか?
「ホップだけではなく、設立したブルワリーや飲食店を活用することで、与謝野町に足を踏み入れる目的の1つになるようにしています。また、他企業とコラボをすることで接点を増やすということにも取り組んでいます。2023年10月には京都ハンナリーズとのコラボビールを製造し、新しいオリジナルデザインのラベルのビールをフレスコやコレモといった関西117店舗にて販売しました」。
―最後に今後の展望について教えてください。
「近い目標は、与謝野駅100周年に向けて、ビール事業をはじめとして、パン屋や宿泊施設など10個の滞在目的を作ることです。『若い人が帰ってくる楽しいこと作り』を目指し、これからも事業を進めていきたいです」。
(取材日:2023年8月17日)
社長プロフィール
代表取締役:濱田 祐太
1996年生まれ。京都府与謝野町出身。高校生のときから、地元丹後の活性化を志し、関西学院大学入学後、地方議員の事務所にてインターンシップを行う。その経験から政治ではなくビジネスで地域課題の解決に取り組みたいと考えるようになる。2019年7月、大学在学中に、(株)ローカルフラッグを立ち上げ、京都府与謝野町を中心に、若者によるチャレンジ(起業・事業承継等)を促進して地域の雇用や地域課題解決につなげるべく挑戦中。
会社情報
社名:株式会社 ローカルフラッグ
ホームページ: https://www.local-flag.com/
本社:〒629-2302 京都府与謝郡与謝野町字下山田1342-1
代表者:代表取締役社長 濱田 祐太
設立:2019年(令和元年)7月
〇編集後記
まちづくりに興味があるので、大学生で起業して与謝野町の活性化に貢献している濱田さんの思いや事業を伺えて、有意義な時間でした。目標を言い続けるという姿勢が事業の拡大につながっていると実感しました。与謝野町へのこだわりが詰まった「ASOBI」は京都市内でも購入することができるので探してみたいと思います!(岩井)
今回のインタビューを通して、思い立った時に行動すること、そしてそれを継続することの大切さを感じました。また、生まれ育った町与謝野町に対する濱田さんの思いや「まだまだ与謝野町には可能性がある」という言葉が心に残りました。機会があればまた与謝野町やブルワリーに訪れてみたいと思います。(森田)
今回お話を伺った中で、「誰も取り組んでいないことは、それだけチャンスがある」という言葉が印象的でした。「何もない」ことをネガティブに捉えるのか、未開拓な可能性があるとポジティブに捉えるのかは、その人次第なのだと気付かされました。貴重なお話を聞く機会を頂き、ありがとうございました。(栗栖)