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オープンから10年 京都市最大級の農産物直売所

-「じねんと市場」の福井賀津男店長にインタビューー

近鉄・地下鉄竹田駅西2番出口から西へ歩いて5分。地元農家直送の新鮮な旬の野菜や果物を販売する、京都市内最大級の農産物直売所「じねんと市場」がある。「じねんと」という言葉は、「自然と」という意味で「自然」を訓読みしたものである。じねんと市場は、株式会社メゾネットという会社が運営している民間の農産物直売所である。

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じねんと市場の外観

2023年10月2日、京都府京都市伏見区にある「じねんと市場」の店長、福井賀津男さんにお話を伺った。福井さんは「じねんと市場」で働きだして5年。前職はカメラマンという現在と全く異なる経歴をもつ。そんな福井さんの今のやりがいは、生産者さんからの「売ってくれてありがとう」という言葉だそうだ。

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店長の福井賀津男さん

今年でじねんと市場は10周年を迎える。しかし、はじめは、市場はなく、銭湯、フットサルコート、直売所、レストランと順番に事業を拡大してきた。また、野菜などの直売ははじめ、建物内ではなく、屋外でテント二棟を使用して行っていた。株式会社メゾネットは「LOHAS」の経営理念を掲げているため、一連の生活サイクルを作り出すことを目的に、直売所・レストランといった事業を展開することになったそうだ。

じねんと市場は年配の近隣住民でにぎわう。フットサルコートがあるためか、他の直売所に比べて、サラリーマンや学生の男性が買い物をする姿もよく見られる。常連のお客さんと従業員は顔見知りとなり、食材の使い方についてやりとりをすることもあるそうだ。

じねんと市場の歴史

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敷地内に直売所、レストラン、銭湯、フットサルコートが並ぶ

じねんと市場と農家さん

——契約している農家は何軒ほどありますか?

 

「登録軒数は約400軒ほどです。HPに掲載している農家はその一部です。その中で出荷される時期が異なるので、一定の時期に出荷している農家の軒数は、より限られます」。

——契約している農家の地理的範囲はどんな感じですか?

 

「できるだけ京都府産のお野菜とは決めていますが、伏見区以外の農家さんとの付き合いも多いです」。

 

——HPに生産者お取引申し込みフォームがありますが、その他、農家の募集方法はどのようなものがありますか。(飛び込む営業など)

 

「どうしても扱いたい野菜があればこちらからアプローチをすることもありますが、基本的に農家からの出荷申し込みによります。ただ現在は契約生産者数が増えているため、お断りすることも多いです。商品が増えすぎると廃棄に繋がるので、特に既存の品目に関しては丁寧に検討しています。まずは農家さんが出荷したい品種などをよく確認してから判断しています」。

 

——じねんと市場へ野菜を出荷する農家さんはどのように選んでいますか?

 

「野菜の品質、クオリティが第一の基準ですね。売れなさそうなものは素直にお伝えします。しかし、また、選定基準というほどではありませんが、農家さん自身の人柄やしゃべりやすさについては重視しています」。

 

——農家さんと連携するうえで、苦労することはありますか?

 

「あります。商品一つ一つできる量も違えば、農家さんのニーズも一人一人異なるので、それぞれに対応することは難しいです」。

 

——農家さんと連携するうえで、気をつけていることは何ですか?

 

「会話を大切しています。双方の希望・意見をバランスよく取り入れるように心がけています。会話の中で、相手がしてほしいと思っていることをくみ取り、こちらからもしてもらいたいことを伝えるようにしています。また、そのひとそれぞれの癖を知ることも意識しています」。

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POPには農家さんの写真が。福井さんが撮影することもあるそう

​商品の価格

——商品の価格はどのように決めていますか?

「商品によって、いちばん初めにもちこんだ農家さんが設定した価格を基準にすることが多いです。しかし、安すぎるといけないので、最低価格は設定してあります。また、値切り合戦になりにくいように10円単位で値段設定を行うというルールを設けています」。

 

——農家さん自身で価格を設定することに対して何かサポートはされていますか?

「農家さんの要望を実現したいと思っているので、基本的には農家さんに売りたい価格を決めてもらっています。希望の価格を持っておられる方が多いですが、価格設定が分からない方に対してはアドバイスすることもあります。また、価格は後から上げることが難しいので、最初は中央卸売市場の卸売価格を基準に値段を設定してもらっています」。

じねんと市場の魅力

——じねんと市場のアピールポイントはなにですか?

 

「他の直売所と比較すると少し値段は高めですが、クオリティの高い商品を販売しているところです。野菜は季節ものなので、出始めが一番高く、少し経つと多くの農家出荷するため、競争率が上がり、価格が下がります。そしてまた出回り量が少なくなると高くなります。農家さんから手数料をとっているので、高く売れればその分、我々の利益も大きくなります。なので、高く売る工夫をするよう心がけています。じねんと市場は他の直売所よりも値段が高いので、農家さんとしても、高く売れるからこちらに持っていこうという思いがあると思います」。

——お客さんに高くても買ってもらえる工夫はありますか?

 

「実際にいただいたお客様からの感想を農家さんに届けるようにしています。お客さんからのおいしいという声は農家さんのモチベーション向上につながるからです」。

——じねんと市場のおすすめ商品を教えてください

 

「スーパーで売っていない珍しい商品がオススメです。同じ野菜でも、種類が豊富にあります。野菜の品種は年々増加しています。これに伴い、農家さんは新種の農産物の栽培に挑戦します。はじめは、少量で栽培するため、スーパーに卸されることはあまりありません。少量でも販売できることはじねんと市場の強みですね。また、季節ごとの旬の商品もおすすめです」。

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POPにはたくさんの情報が書かれており、商品の魅力が伝わってきます

——消費者からの評価はいかがですか?また、販売対策として実施されていることがあれば教えていただきたいです。


「お客様からの声は様々です。全く期待と異なる意見をいただくこともあります。特にこれといった販売対策はとっていませんが、この時期こんな野菜が旬で店頭に出ますといった“旬情報”をホームページに載せたりして充実させています。ホームページにはじねんと市場の野菜を使ってもらっているレストランの情報もあります」。

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店内にはスーパーで見かけない珍しい野菜がたくさん

じねんと市場と社会課題

——フードロスを減らす工夫はありますか?

 

「安く買い取ってレストランで利用したり、介護施設のお弁当も製造しているのでその材料として利用したりしています。また、同じ商品を納品する農家さんが増えると、過剰供給によってフードロスにつながります。そのため、こちらから農家さんに違う商品の生産を提案することもあります」。

 

——契約している農家さんはどのような方が多いですか?また、高齢化の影響はありますか?

 

「若手と高齢者との割合は体感的に半分半分くらいです。新規参入者は全体の10%ほどと思われます。高齢になったことで、免許を返納し、車の運転ができなくなり退会する農家さんがいます。しかし、農家さんとの関係が途絶える大きな原因になっているわけではないですね」。

じねんと食堂

「じねんと食堂」は、野菜を中心とした料理を楽しめるビュッフェレストランであった。しかし、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大のため、ビュッフェスタイルでの営業を終了。そして、2021年7月21日、大改装を経て新しいタイプのレストランとしてリニューアルオープンした。隣接する直売所「じねんと市場」の毎日直送の地元新鮮京野菜を使ったお料理を楽しめる。このように直売所とレストランの関係は深く、農家さんと一緒にメニューを考えることもあるそうだ。

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店内の様子

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日替わり定食や季節のおすすめメニューなどを楽しむことができます

(取材年月日:2023年10月2日)

〇じねんと市場の基本情報

・営業時間:平日9:00~19:00、土日祝9:00~18:00

・定休日:年末年始、不定休

・住所:京都市伏見区竹田青池町125(伏見力の湯隣接)

・TEL:075-646-0831

・FAX:075-642-0077

・メールアドレス:info@jinento.com

・HP: https://jinento.com/

・会社:株式会社メゾネット(https://mezone.co.jp/) 代表取締役/長尾俊幸

〇取材を終えて

井出:店内には普段スーパーでは見ない農産物や初めて見る野菜もあり、とてもわくわくした気持ちになりました。私たちが市場に並ぶ農作物を見ることができるのは、福井さんの個性豊かな農家さん1人1人とのコミュニケーションを通じての信頼があるからだと感じました。取材を通じて貴重なお話をたくさん聞かせていただき、大変勉強になりました。

 

土屋:インタビューでは、農家と直売所の関係性や農家の立場からして直売所を活用するメリット等、未知なことばかりで踏み込んだ質問もしましたが、全ての質問に対して丁寧に、率直に、答えてくださり、大変勉強になりました。一人一人の農家やお客さんのニーズに応じてコミュニケーションのアプローチを変えることが重要なのだと感じました。

 

古川:今回のインタビューを通して、消費者の立場からは分からない直売所の裏側について知ることができました。福井さんから様々なお話を聞かせていただき、とても勉強になりました。その中でも、農家さんとの会話を大切にされている点が強く印象に残りました。農家さんとの距離が近い直売所だからこそ、密にコミュニケーションを取ることが重要になると感じました。

 

松本:市場の店長さんにお話を伺う機会はめったにないので新鮮で面白かったです。また、インタビューをするのは中学生の時以来で、とても緊張しました。私たちの拙い質問に、真摯に回答してくださった福井さんには感謝しかありません。私は普段、市場で買い物をすることはありません。しかし、今回取材させていただいて、市場に並ぶ野菜の魅力を知り、市場に野菜を買いに行ってみようと思いました。

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