路網開設の達人に聞く、日本の森 林経営の未来
―日吉町森林組合組合長・湯浅勲さん―
2021年10月21日、日吉町森林組合の代表理事組合長である湯浅勲さんの取材に伺いました。
湯浅さんは2009年に『プロフェッショナル仕事の流儀(NHK)』に出演され、路網開設のエキスパートとして知られています。
私たちは林業を専攻しているわけではありませんが、2020年に小野村割岳に入り、2018年の台風21号によって崩壊した路網を目の当たりにしました。そして、日本の森林の危機的状況を実感しました。
そこで、路網整備の重要性について考え、実際の現場で作業されている方々のお話を伺ってみたいと思いました。
崩壊して排水管がむき出しになった路網の様子(小野村割岳、2020年9月)
湯浅 勲 さんプロフィール
1951年 日吉町に生まれる
高校卒業後、旭化成に勤務
1987年 日吉町森林組合に勤務
2006年 日吉町森林組合の理事に就任
2009年 NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』出演
2021年 代表理事組合長に就任
【主な著書】
『道づくり技術の実践ルール』(共著)
『山も人も生き生き 日吉町森林組合の痛快経営術』(全国林業改良普及協会)
湯浅さんが組合長をされている日吉町森林組合は、南丹市日吉町殿田尾崎8番地の1に位置する、1966年3月に設立された森林組合です。2021年10月現在で、組合員は1003人、役員は18人(常勤1人、非常勤17人)、従業員は21人(事業課19人:プランナー4人・現場12人・購買2人・事務1人、総務課:2人)です。森林組合の作業面積は約9000ha、うち4000ha弱は人工林になっています。保有機械は、ハーベスタ2台、フォワーダ2台、モロオカ(ゴムクローラを使うフォワーダ)1台、10トントラック1台を組合で保有しています。その機械を操縦する専任オペレーターが4人います。
山林を間伐*などの手入れをすると費用負担が発生しますが、手入れをせずに放置すると森林は荒廃してしまいます。日吉町森林組合は作業効率を上げることで施業単価を安く抑え、森林所有者が費用を負担することなく、逆に木材の売上代金を返せるように努めています。そのために欠かせないのが、提案型集約化施業**と作業路網の整備、林業の機械化の推進だと話されていました。
*間伐とは、森林の混み具合に応じて、樹木の一部を伐採し、残った木の成長を促す作業のこと。
出典:林野庁HP、「間伐の推進について」、
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/suisin/、2022年1月23日閲覧。
**提案型集約化施業とは、まず森林組合が森林所有者に事業の内容を説明し、全員に同意を得たうえで森林経営計画を策定します。次に所有者の協力を得て林地境界を確認して作業対象の林地を所有にかかわらず一定面積にとりまとめ(集約化という)、路網ルートの設計、立木本数や樹高、蓄積などを確認し、どのような森林にするかを決めます。そして、間伐本数や施業費、木材売上の見積額などを記した森林施業プランを森林所有者に提示し、契約を締結します。これによって、小規模所有者の林地を集約化し、路網の開設を効率的かつ適切に行うことで施業を機械化してコストを低く抑え、地域森林を面的に整備することが可能になります。
ハーベスタ(写真提供:日吉町森林組合)
上の写真の機械は、ハーベスタという機械です。立木を伐倒し、ローラの回転で木材を送り出し、装備しているカッタで枝を切り払い(枝払い)、設定した長さまで木材を自動で送り出し(測尺)、装備してあるチェンソーで材を切り揃える(玉切り)、といった各作業と玉切りした丸太の集積作業を一貫して行う自走式機械です*。
*イワフジ工業株式会社、「ハーベスタ」
http://www.iwafuji.co.jp/products/forest_hav.html、2022年1月27日閲覧。
フォワーダ(写真提供:日吉町森林組合)
上の写真の機械は、フォーワーダという機械です。伸縮可能なクレーン部分(グラップルローダー)を用いて、ハーベスタ等を用いて切り出された丸太を、荷台に積んで運ぶ集材専用の自走式機械です。広い荷台と優れた荷重バランスにより、短材から長材まで効率良く積込めるようになっています。従来、材の積込・搬出・積み下ろしを3台で行っていた生産システムを1台で行うことができる画期的な機械になっています*。
*加藤製作所㏋、「F801」、http://www.kato-works.co.jp/products/foresry/pdf/C05831_F801.pdf、2022年1月27日閲覧。
日吉町森林組合で行われている提案型集約化施業や、その他疑問に思ったことなどについて、湯浅さんに質問をさせていただきました。
――日吉町森林組合管内の主な樹種は何ですか?
湯浅 大半はスギで、ヒノキは2~3割程度です。
――組合の主な売り上げは何ですか?
湯浅 組合の仕事は受託事業なので、組合の売上に当たるものは作業受託料です。そのため、立木の価格は組合の収支には直接関係しません。木材の売上は、組合の受託料やその他の経費を差し引いて、山主に支払われます。
――丸太はどこに販売されているのですか?
湯浅 組合は年間何㎥という形で舞鶴の合板メーカーや製材所と契約していて、京丹波町に工場のある製材所に出荷しています。他にも、八木や京北の原木市場にも出荷しています。
――いま何か困っていることはありますか?
湯浅 山主の1/4ほどが日吉に住んでいないうえに、土地が細分化されていて、作業道を開設する場合でも多くの山主の了解が必要になることです。不在地主化が提案型集約化施業実行のネックになっています。
――どこに作業道を作るか、どうやって決めるのですか?
湯浅 実際に山を歩き、見ることで、道を開設できる場所はそこしかないのだとわかります。山に入らずに地図やICTを利用し、山の情報を一般化して、それをもとに作業道を開設する場所を決めることは不可能ではないですが、極めて難しいといえます。
どの木を間伐するかも一律に決められるものではなく、土壌と木の両方を見て判断するそうです。また、尾根に道を作ると集材が難しいことや、路網がつけられない場所での間伐は切り捨て間伐*しかできないと教えて頂きました。
*切り捨て間伐とは、間伐して伐採した後、木材を搬出せずにそのまま放置すること。
――作業道の整備・修繕のスパンはどれくらいですか?また、作業道はどのくらい持つのでしょうか?
湯浅 作業道は10年に1回程度、間伐の時に使用されます。その時に必要な補修を行えば道は繰り返し使用することができます。
――日本の林業に必要なことは何ですか?
湯浅 人材の養成と路網の整備が欠かせません。それは、関係者の意識を改革することでもあります。例えば、都道府県にそれぞれ、路網開設の許可をする際の基準や査定の段階で、路網開設について判断できる人を配置することなどが重要です。無理な路網開設が横行しないように、ストップをかけられる人が必要です。
今回、湯浅さんを取材させていただき、崩壊しない丈夫な作業道を開設することは可能であることを学びました。また、日本の林業の問題は、国土や気候などの特徴との関係が深く、複雑なものであるために、将来を見据え、長期的なスパンで慎重に取り組むことの重要性を実感しました。さらに、湯浅さんは、林業の抱える問題に真剣に取り組む人がいないことを懸念していらっしゃいました。
そのため、私たちは、この現状を社会に周知することが重要であると考えました。この記事を通して、日本の林業の抱える問題について考えるきっかけになれば幸いです。
(取材日:2021年10月21日)
情報:日吉町森林組合 〒629-0341 京都府南丹市日吉町殿田尾崎8−1
【編集後記】
神谷咲良
取材を通して、日本の林業の抱える課題の規模とその複雑さを目の当たりにし、非常に衝撃を受けました。林業の現状とその課題について知った身として、今後も何かしらの形でこの問題に取り組んでいきたいと思います。
河井あかり
これまでに製材所や工務店、荒れてしまった人工林など、林業に関わる様々な場所を見学してきました。ですが、実際に山に入って森林を整備していらっしゃる方にお話を聞くのは初めてでした。今回、湯浅さんから日本の林業の現状に関する現場の生の声を聞き、その深刻さを身に染みて感じました。日本の林業の未来について、考える意欲が湧きました。
則武侑磨
一斉植林や皆伐のような、数十年後を見据えない無計画な林業のやり方は過去のものであると思っていました。しかし、今回の取材で、皆伐したまま植樹し直すことすらせず放置する場合があることや、湯浅さんに話を伺い見学したにもかかわらずそれを生かせない林業関係者が多いという話は残念に思いました。やはり現場レベルで持続可能な林業の在り方について考えなければ解決のしようがない問題であると思いました。






